日本神経感染症学会
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ガイドライン

細菌性髄膜炎は,初期治療が患者の転帰に大きく影響するため,緊急対応を要する疾患(Neurological emergency)として位置づけられている.新たな抗菌薬や検査方法の進歩した現在でも,世界的にみてもいまだ十分に満足しうる治療成績とはいえない.その大きな要因として,本症における適切な抗菌薬の投与の遅れが指摘されていた.この問題解決には,第一線の一般医が本症を早期に疑うことの重要性を理解することについての周知の必要性と,本症の初期診断の難しさに対する一定の基準作成および不適切な治療に対する改善の必要性の理解が重要と考えられていた.このような背景をもとに,2006 年11 月に日本神経学会・日本神経治療学会・日本神経感染症学会の3 学会合同による本症の診療ガイドラインが公表された.この作成では,一般医が読んでわかりやすいガイドラインの記載にすることと,救急現場において直ちにこのガイドラインを参考にして治療できるように,最初の見開きにフローチャートを示し,このガイドラインが上記3 学会ホームページから学会員以外のすべての人が閲覧できるような体制を構築した.このガイドライン作成により,これら上記の諸問題に対する改善には,少なからず寄与できたのではないかと考えている.
しかしながら,この診療ガイドライン作成からすでに時間が経過しており,さらにその後導 入されたワクチンの対応なども含めて,その改訂が強く求められてきた.

今回,本症の診療ガイドラインの改訂にあたり,作成委員が共有した基本的認識について,ここでまず触れておく.
本症の治療は,基本的に肺炎などのほかの感染症と異なり,数時間で意識清明から昏睡になり死亡する場合もあり,その緊急性と病態を理解して臨む必要がある.基本的に本症の治療は,その地域における年齢階層別主要起炎菌の分布,耐性菌の頻度および宿主のリスクを考慮し,抗菌薬選択を行うことが必要である.実際に,海外における本症の診療ガイドラインにおける治療選択は,その国の疫学的現況を背景に作成されており,国により推奨されている治療が異なっている現状がある.
このような現状を踏まえ,今回の診療ガイドラインの全面改訂に際し,われわれはできる限り,現時点の日本における細菌性髄膜炎の疫学的現況を把握することから始め,この現況を踏まえて診療ガイドラインを構築することを試みた.つまり,単に欧米の診療ガイドラインを参考にして作成するのではなく,本症についての「日本発」の「日本における」診療ガイドラインの構築が極めて重要との認識に立脚し作成作業を行った.さらに,従来の欧米のガイドラインで未検討であった点についても,「日本発」のエビデンス構築の点から,今回,臨床治験を実施し,その検討を行った.
しかしながら実際に,これらの実施は極めて困難な作業であり,他疾患のガイドラインで用いている高いエビデンスレベルに基づいたデータ構築の点からは十分なものとはいえないかもしれない.しかし,「日本の」「日本による」「日本のための」ガイドライン構築という基本認識にご理解を賜り,限られた時間のなかで非常に困難な作業を実施していただいた作成委員・作成協力者および前述の疫学調査や臨床治験の実施に際し,多大な御尽力を賜った諸先生には,この場をおかりして心より感謝するものである.
なお,作成作業中の2013 年4 月からワクチンの小児における公費負担(定期接種化)が実施され,接種率が90%以上に急激に上昇し,現時点で,少なくとも小児におけるインフルエンザ菌性髄膜炎の発症は大きく減少してきており,これらの動向把握にも時間を要した.この動向を踏まえたうえで,限られた時間のなかで治療指針の作成を各委員には行っていただいた.
2013 年11 月より現在の7 価の結合型肺炎球菌ワクチンから,13 価のワクチンへの導入・切り替えが実施されており,これによりさらなる発症動向の変化が予想されている.以上のことを踏まえていうならば,このガイドラインの診療指針は,あくまで現時点における推奨であり,今後想定される本症の発症動向の変化や各種抗菌薬に対する耐性化の変化などにより,この推奨が変更される可能性も残されている.
したがって,この診療ガイドラインは現時点の日本における細菌性髄膜炎の診断と治療水準の向上を目的として作成しており,臨床現場において刻々と変わる個々の患者の病態に合わせた臨床家の治療についての裁量権や今後の疫学的変化に対応した治療について規定するものではないことを,ここにお断りしておく.

2014 年12 月

「細菌性髄膜炎診療ガイドライン」作成委員会委員長
亀井 聡



細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014

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