II.主として1型単純ヘルペス(HSV-1)による単純ヘルペス脳炎の診断基準(成人)
1.急性(時に亜急性)脳炎を示唆する症状・症候を呈する[症状の項を参照].
2.神経学的検査所見
(1)神経放射線学的所見にて側頭葉・前頭葉(主として,側頭葉内側面・前頭葉眼窩・島回皮質・角回を中心として)などに病巣を検出する.
- A.頭部コンピュータ断層撮影(CT)
- B.頭部磁気共鳴画像(MRI)
(2)脳波:ほぼ全例で異常を認める.局在性の異常は多くの症例でみられるが,比較的特徴とされる周期性一側てんかん型放電(PLEDS)は約30%の症例で認めるに過ぎない.
(3)髄液:通常,髄液圧の上昇,リンパ球優位の細胞増多,蛋白の上昇を示す.糖濃度は正常であることが多い.また,赤血球やキサントクロミーを認める場合もある.
3.ウイルス学的検査所見(確定診断)
(1)髄液を用いたpolymerase chain reaction(PCR)法でHSV-DNAが検出されること.
ただし陰性であっても診断を否定するものではない.
特に,治療開始後は陰性化する可能性が高いので,治療前の髄液の検査を行うことが望ましい.
(2)単純ヘルペスウイルス(HSV)抗体測定による検討
髄液HSV抗体価の経時的かつ有意な上昇※,または,髄腔内抗体産生を示唆する所見†がみられること.
(3)髄液からのウイルス分離は稀である.
上記の1,2から単純ヘルペス脳炎を疑う症例を「疑い例」,3のウイルス学的に確定診断された症例を「確定例」とする.
注釈
※判定に当たっては,抗体測定方法と測定結果表示法に留意する.CF,NTなどでの2段階希釈法による表示抗体価の2管以上の上昇を有意の上昇とする.ELISA(EIA)での吸光度測定結果の直接表示,ELISA(EIA)での吸光度測定結果の任意的単位による表示では,有意差の判定,髄腔内抗体産生の判定には慎重を要する.
†血清/髄液抗体比≦20 または
抗体価指数=髄液抗体/血清抗体÷髄液アルブミン/血清アルブミン≧2
但し血清と髄液の抗体価は同一の方法で検査しなくてはならない.
文 献
- Whitley RJ, Soong SJ, Linneman C Jr, et al : Herpes simplex encephalitis. Clinical Assessment. JAMA 247 : 317─3120, 1982.
- Lakeman FD, Whitley RJ : Diagnosis of herpes simplex encephalitis : application of polymerase chain reaction to cerebrospinal fluid from brain-biopsied patients and correlation with disease. National Institute of Allergy and Infectious Diseases Collaborative Antiviral Study Group. J Infect Dis 171 : 857─863, 1995.
- 庄司紘史:単純ヘルペス脳炎の臨床像.神経内科 17 : 95─97, 1982.
- 亀井 聡,高須俊明,大谷杉士,ほか:単純ヘルペス脳炎本邦例の髄液所見の分析.臨床神経 29 : 131─137, 1989.
- 亀井 聡,高須俊明,大谷杉士,ほか:単純ヘルペス脳炎本邦例の脳波所見およびCT所見の分析.臨床神経 28 : 1109─1117, 1989.