III.主として1型単純ヘルペス(HSV-1)による単純ヘルペス脳炎の治療指針(成人)
1.一般療法:気道の確保,栄養維持,二次感染の予防
2.抗ヘルペスウイルス薬の早期投与
(1)単純ヘルペス脳炎「疑い例」の段階で抗ウイルス療法を開始する.※
アシクロビル10mg/kg,1日3回1時間以上かけて点滴静注,14日間†
(重症例ではアシクロビル20mg/kgが使用されることもある.§)
遷延・再発例には1クール追加する.
(2)アシクロビル不応例にはビダラビンの使用が勧められる.
ビダラビン15mg/kg,1日1回点滴静注,10〜14日間
単純ヘルペス脳炎が否定された段階で抗ウイルス療法を中止する.
3.痙攣発作,脳浮腫の治療
(1)痙攣発作にはジアゼパム,フェノバルビタール,フェニトインの静注・筋注を行う.
(2)痙攣重積には呼吸管理下でミダゾラム,ペントバルビタールなどの持続点滴を行う.
(3)脳浮腫に対してはグリセロール,マンニトールの点滴静注.
4.その他
脳幹脳炎,脊髄炎に対しては,抗ウイルス薬に加えて副腎皮質ステロイドの併用を考慮する.
注釈
※「疑い例」の段階で治療を始めた場合でも,診断確定のための検査を怠ってはならない.
†アシクロビルの投与に当たっては,ショック,皮膚粘膜眼症候群,アナフィラキシー様症状,DIC,汎血球減少症,意識障害や痙攣,錯乱などの脳症,急性腎不全などの副作用に注意する必要がある.
§アシクロビルの1日薬用量を超えるため,インフォームドコンセントに留意し,家族/患者の同意を得られた時に増量する.
文 献
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